のっぺり

基本的にネタバレに配慮しません。アイドル(ほぼハロプロ)、漫画アニメゲーム、本、ごはんその他の話

まとめ2[小説感想]

小説の感想。ネタバレあり。後半2本はミステリなので注意ください。

今年全然本読めてないかも……小説以外も。そういう時もあるか。

 

村上龍限りなく透明に近いブルー

村上龍好きなのに何故か今まで読んでなかった。初めて読んだ『半島を出よ』が面白くて好きになった。オードリー若林の『社会人大学人見知り学部卒業見込』を読んでそういえば、と思って手に取った。

正直に言うと見たくない世界が拡がっているのだが、リュウが全身で世界を感じているので、見ざるを得ない。見て見ぬふりもしているところも含めて見たくないのだ。

全体的に暴力的だけど特にセックスの描写が酷くて、この世界には快感という概念が存在しないのではないかと思う。ちらりちらりと天国覗いている気もするけど、あまりわからない。呆然としてたら終わってしまったみたいな。評価を見てみると、その時代を生きていないと分からない部分も大きそうに思う。

あんまりわからなかったために、巻末の綿矢りさの解説に唸ってしまった。なるほど……と思ったけど、自分に馴染まなかった時ほど全てに納得してしまうので、自分の思いが纏まる前にこれを読むのは良し悪しな気がする。

地の文にセリフが乗るところ、セリフの息継ぎがない時のリズムがやっぱり好き。

 

砂川文次『ブラックボックス

小説は体験、を体感した。

主人公の人物像があまりにも自分とかけ離れていて本来一生何も掠らないだろうことなのに、ロードバイクに乗っている時の心情描写が巧みで、分かったような気分になり引き込まれた。新鮮だった。

あまりにも大きい世界に身を置いてもがくような息苦しさがある。コントロールの効かない自身の衝動も、コントロールできないことへの執着や苛立ちも、生々しい。世界を諦めない人間への羨ましさすら感じた。

 

逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

残酷で凄惨で、事実がベースにある作品特有の濃厚さだった。

多分、女と男の間に全く相容れることができない、ものすごく大きな断絶があるのだろうと思う。今も。恐らくある程度事実がベースになっているだろうことだけに本当辛い。ただ登場人物に深く感情移入して入り込めるようなシーンはあまりなく、女がテーマの一つであればこそそういうシーンを求めてしまった。

 

早見和真『笑うマトリョーシカ

ぐいぐい読まされた。清家一郎のキャラクターを好きなんだと思う。自分だけで作り上げる自分など居ないし、完全に他人の操り人形な自分も居ない。同感する。人を語る時に、その人を形作る何か一つの正しい答えを得ようとする姿が滑稽にも思える。

そして他人の内心など本来何一つ分かっていなくて、自分から見た他人でしかないということを思い知らされるとワクワクする。分かっていると思っていないと不安な癖に、こう裏切られると嬉しい不思議。

空っぽの人間が政治家に向いているっていうのは本作に限らず言われることがあるけど、イマイチよくわからない。政治家に必要とされる資質というより、そもそも何をする職業なのかがぼんやりとしか分からないからだと思う。掴みがたい仕事。

 

新川帆立『元彼の遺言状』

サラッとした読み口。

主人公の剣持麗子のキャラクターもさっぱりしてて良いんだけど、解決までサクサク進むだけにもう少し詳しく彼女がどんな人間なのかに引っかかりたくて、そこを物足りなく感じてしまった。本人の独白でなければ、周りの人からの守銭奴、怖い人的な評価以上の視線はどうなっているのかとか。

剣持麗子シリーズで続編があるようなので、この期待が筋違いであって、そちらで深まっていくものなのかもしれない。

 

米澤穂信『黒牢城』

歴史ものでミステリと聞いてはいたものの、どう融合するのか全く想像がつかなかった。まさか安楽椅子探偵が登場するとは思わなかった。なるほどしっかりミステリ。千代保のやったあれこれも官兵衛が謎を解く頃には上手い塩梅で流してしまっていた。しかもこういう風に人物と時勢に踏み込んだミステリは初めて読んだので新鮮だった。当時ならではの登場人物の想いも滑らかに理解できた。

官兵衛の甘言で村重の脳内に広がる夢の景色があまりにも淡く甘く幸福に満ちていて、逆にもうどうにもならないことをくっきり浮き彫りにさせ、哀しくて印象深かった。思ったより酷いことにはならなかったけど。