小説の感想。ネタバレる可能性あります。
今村翔吾『塞王の楯』
散々言われていそうだけど、王道の少年漫画を読んでいる気分に。ジャンプに載ってそう。もし漫画にすることがあれば『火ノ丸相撲』の川田先生にやってほしい。堂々たる王道展開に、胸が熱くなるべきシーンで胸を熱くした作品だった。友情、努力、勝利。
多分色々無茶なんだろうけど、匡介が石の声を聴く*1、までとなれば流石に分かるものの、石垣に詳しくなさすぎて何がどのくらいフィクションじみているのか判断がつかない。
そしてどのように石垣を作ってるのか縁遠すぎて頭の中で想像できないのが残念だった。ふと思い立ってYouTubeで検索したら、庭とかに石垣積んでる動画出てくるじゃん…もっと早く気付けば良かった。
小川糸『ライオンのおやつ』
中盤まで順調に入り込んで読んでたのだが、先生のくだりで急に普通の勧善懲悪みたいになって急に冷めてしまった。私は人間に、自分の予想もせぬ一面があってほしいのだと思う、特にフィクションでは。
これを読んでこんなことを言い出すのは不謹慎で失礼だろうけども、好きなご飯を食べてお散歩して寝るだけの生活、本当に目指したい。健康なうちにそれやるの叶わない気がしてるけどなんとかそうなりたい。
彩瀬まる『新しい星』
見える景色が身近で、じんわり沁みいる小説だった。
毎話、ほんの少しの希望で、ほんの少し気持ちが軽くなって、誰かに優しくできるような気分になった。実際にはこんなに丁寧な人間をやっていないので無理。あとタコを飼ってみたくなった。タコってもしかして……可愛い……食べるけども
永井沙耶子『女人入眼』
鎌倉殿の13人を観ている今だから、より楽しめたと思う。登場人物の印象は結構違っていて、更に内面を掘り下げて見せてくれる。でも義時はあんまり印象が違わなかった。史実でも絶妙に食えねえ奴なんだろうか。もしや歴史小説ってこういう風に楽しむものだったのか……と今更思った。
政子の話だと分かるに連れて面白くなっていった。主人公には立ちはだかり、手のつけられない恐ろしさを感じられて興奮した。力強く傲慢にしなやかに生きた女の迫力に満ちていて、哀しい話でもあるのに不思議と読後の充足感があった。
正直もっと政子に振り回されたかった気持ちはある。
柚月裕子『ミカエルの鼓動』
なんとなくドラマっぽく……というか白い巨塔か。そういう風に感じて、西條が長谷川博己さん、曾我部病院長が國村隼さん、雨宮が木村文乃さんで再生された。
オチは割と想像通りだったけど、プライドと使命感の狭間で揺れる男の描写が歯痒くて見事に焦らされた。いや〜小学生の命を一番に考えてくれよ普通に。と思うんだけど、自分ごとになると冷静になるのが難しいのも分かる。
責任が重すぎて、医療に関わる仕事は絶対にしたくないし出来ないと改めて思った。いつも医療従事者の皆様に感謝の気持ちがあります。
深緑野分『スタッフロール』
産みの苦しみを描いた作品好き。そういうお話って最終的に破滅的な終わり方をすることが多いけど、マチルダは極めて健康的に社会との断絶することもなく生きていて珍しいと思った。破滅エンドも好きだけど、これはこれでホッとした。たった一つの好きなことをしながら生きているんだって、素敵だね。
CGアニメーターの仕事内容を知らなかったので、ヴィヴのパートも面白かった。CGの動画を作るための作業がここまで分業化されているとは知らなかった。ドラマに入り込むと言うより、CGを取り巻く色々について思い返したり考えたりしながら読んだ。
ただヴィヴの凄さがあまり想像できなかった。手書きのアニメは少しだけ分かるけど、CGの原画の凄さのポイントがそもそもあまり掴めていない。原画なんだからある程度は同じだろうと思うものの。
今まで観たCGの中で一番魅力的だったのは、『ダンボール戦機』のLBXのバトルシーンだった。なんてカッコいいんだと強く思ったシーンが……あったんだけど何話なのか思い出せない。あれはCGっぽさを感じさせないとかいう問題ではなくて、まさに原画の良さでメリハリがついてカッコよく動いていたんじゃないかと思う。LBXのサイズ・重さに合った動きで、構図もカットの繋ぎも良かった……と思う多分。見返したい。
ちらりと言及のあった、日本のゲーム系の会社が作った物凄いクオリティのフルCG映画は『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』のことだと思うのだが、あれは本当に凄かった。当時映画館であれを見て、ああ技術的に日本でこういうものって作れるんだ、と思った覚えがある。よもや現実の景色との境が曖昧になろうかという、FFの世界が実在するのだと思い込まされる作り込みだった。お金なのかぁ……。
CG全面否定派ではないけど、作り込みが甘い3DCGだと我に返ってしまって没入感が途切れるのが嫌だ。しかしあのレベルで作り込まれていると、CGだからどうとかいう問題はなくなる。
CGで実在の人物を登場させるのは、生命の禁忌的な感覚というよりは現代の人権的な考え方の方で引っかかりを感じていて、生前に本人の許可が取れているなら別にいいのではとぼんやり思う。家族の許可で良いか、著作権のように権利が切れることがあるのかはちょっと迷う…何せまるで本人のように振る舞うから。
それはそれとして『ローグ・ワン』好きです。
*1:厳密には見えている